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「賃貸物件の原状回復費用について」

2014/12/19 カテゴリー: 賃貸

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下記記事のPDFファイル
(容量:292KB PDF形式)いったんPCへ保存したのち開いて下さい。

 

 

 こんにちは。今回は、3LDKの賃貸マンションに10年間居住されていて、最近ご主人の転勤のために退去されたAさんからの「原状回復費用」の相談です。

 

 具体的にどのようなことですか?

 

 はい、博士。Aさんは家族3人で10年間ごく普通の暮らしをされていたそうです。
 ところが、退去時に「原状回復費用」という名目で管理会社から請求された見積書の内容は、クロスの全貼替、床の全貼替、キッチンの取替新設、電気温水器の撤去など予想外に高額だったそうです。
 Aさんは請求額に納得できず、どうしたら良いのか困っておられます。

 

 なるほど。確かに、Aさんのように、退去時に貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについて、内容や価格面でトラブルが発生するということが現実的には多くあります。

 

 いったいこんな時はどうしたら良いのでしょうか?

 

 そうですね。基本的には、国土交通省が作成・公表している「ガイドライン」を参考にしながら、賃貸人と賃借人とが話し合って解決するのがよいでしょう。

 

 ガイドライン?

 

 正式には「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」といいます。
 トラブルが急増し、大きな問題となっていた賃貸住宅の退去時における原状回復について、原状回復にかかる契約関係、費用負担等のルールのあり方を明確にして、賃貸住宅契約の適正化を図ることを目的に、平成10年に初版が作られました。
 このガイドラインは、国土交通省のホームページから誰でも見ることができます。
 
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(リンク)

 

 へぇ、そうなんですか。
 では、このガイドラインを利用して解決することができるんですね?

 

 そうですね。このガイドラインは、法令ではなくあくまで「指針」ですので、当事者に対して何ら法的拘束力を及ぼすものではありません。しかし、裁判例等を踏まえて作成されているものですので、実際にトラブルが生じて裁判等になった場合には、このガイドラインの内容が極めて有力な判断基準となるでしょう。

 

 では博士、そのガイドラインの内容について教えてもらえますか?
 そもそも、「原状回復」の明確な意味がよくわかりません。

 

 それではまず、「原状回復」という言葉の意味から説明しましょう。
 ガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としています。
 つまり、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないということを明確にしています。

 

 博士、今の説明の中に出てきた「善管注意義務」というのはどういうことですか?

 

 賃借人は、賃借物を善良な管理者としての注意を払って使用する義務を負っています(民法第400条)。これが「善管注意義務」と言われるものです。
 建物の賃借の場合には、建物の賃借人として社会通念上要求される程度の注意を払って建物を使用しなければならず、日頃の通常の清掃や退去時の清掃は賃借人の善管注意義務に含まれると考えられます。

 

 日頃の清掃を怠っていれば善管注意義務違反となるんですね。

 

 その通りです。賃借人が故意に、又は不注意で賃借物に対して通常の使用をした場合よりも大きな損耗・損傷等を生じさせた場合には、賃借人は、善管注意義務違反によって損害を発生させたことになりますから、賃借人が原状回復義務を負い、その修繕費は賃借人自身が負担するということになるわけです。

 

 でも博士、Aさんのように長い間居住していたら、建物は自然に傷んでくると思うのですが?

 

 いわゆる「経年変化」というものですね。
 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられる建物の経年変化・通常損耗分の修繕費用は、既に賃借人は賃料として支払ってきていると考えられています。
 したがって、賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を軽減させることが適当とされています。

 

 なるほど。建物の損耗・損傷には、経年変化によるものと賃借人の故意・過失によるものとがあるんですね。

 

 これまでの説明をまとめると、建物の経年変化や通常損耗分の修繕費用は、それまでに賃借人から受領してきた賃料の中に含まれるという考えから、賃貸人が負担すべきとされ、他方、賃借人の故意・過失による建物の劣化分の修繕費用は、賃借人の原状回復義務の対象であるという考えから、賃借人が負担すべきとされるということになります。

 

 では博士、賃貸人・賃借人それぞれが負担するものって具体的には、どのようなものがあるのでしょうか?

 

 では、ガイドラインからいくつか具体例を抜粋してみましょう。下の表を見てください。

 

賃貸人負担となるもの 賃借人負担となるもの
【通常の住まい方で発生するもの】
・家具の設置による床・カーペットのへこみ
・テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
・日照など自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち
・設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)
【手入れを怠ったもの・用法違反・不注意によるもの・通常の使用とはいえないもの】
・飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのしみ
・引越作業等で生じた引っかきキズ
・日常の清掃を怠ったために付着した台所のスス・油
・結露を放置して拡大したカビ・シミ
・喫煙によるヤニ等のクロスの変色・臭い
・ペットによる柱等のキズ・臭い
・風呂・トイレ等の水垢・カビ等
・鍵の紛失または破損による取替え
・戸建て住宅の庭に生い茂った雑草の除去
【建物の構造により発生するもの】
・建物の構造上の欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
【次の入居者確保のために行うもの】
・畳の裏返し・表替え
・専門業者による全体のハウスクリーニング
・台所・トイレの消毒
・破損・紛失していない場合の鍵の取替え

 

 なるほど。賃貸人の立場と賃借人の立場、それぞれひとつずつゆっくりみていくと分かるようになってきました。

 

 ここで注意すべき点は、これまでに説明してきたことは、トラブルの未然防止の観点からあくまで現時点において妥当と考えられる一般的な基準をまとめたガイドラインの考え方であって、ガイドラインの考え方と異なる内容を契約で取り決めることも可能であるということです。

 

 えぇ!そうなんですか?

 

 賃貸借契約は、「契約自由の原則」によって、民法、借地借家法、消費者契約法などの法令の強行法規(契約の内容を規制する規定)に反しないかぎり、賃貸人・賃借人の双方の合意に基づいて契約内容を自由に決めることができるのです。

 

 法に触れなければ、当事者で自由に契約できるということですね。

 

 そうですね。ただし最高裁は、経年変化や通常損耗分の修繕義務を賃借人に負担させる特約について、賃借人が修繕費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲を明確に理解し、それを契約内容とすることに明確に合意していることが必要であるとの判断を示しています。

 

 賃借人にとって不利な特約を成立させるためには、一定の要件を満たす必要があるということですね。

 

 その通りです。ガイドラインでも、借地借家法、消費者契約法等の趣旨や、最高裁の判例等を踏まえ、原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約については、次の3つの要件を満たすことを要求しています。

①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

 なるほど。Aさんにも、入居時にどのような取り決めがあったのか契約書の内容をよく確認するように伝えます。

 

 そうですね。そもそもこのガイドラインは、原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円滑な解決のために、賃貸人・賃借人双方があらかじめ理解しておくべき一般的なルールを示したものですので、本来、退去時ではなく賃貸借契約の締結時に参考にすべきものなのです。

 

 Aさんのようなトラブルに巻き込まれないようにするには、契約前に特約で不利な取り決めがなされていないかなど、契約内容をよく確認することが大事なんですね。

 

 その通りです。
 もしわからないことや不安に思うようなことがあれば、大阪宅建協会をはじめとする不動産関連団体が窓口となる相談所などで、契約前に、事前相談をしてみるのが良いでしょう。
 また、トラブルの多くは、建物の損耗・損傷が入居時からあったものなのかそうでないのか、その発生の時期などの事実関係がはっきりしないことから起こりますので、入居時に賃貸人・賃借人双方が立ち会って部屋の状況を確認しておくことも重要です。

 

 

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